■ 現在の主な研究テーマ
1. 集団過程とリーダーシップ
人は集団と無縁では生きられません。しかし,集団への所属は,私たちに安心感ややりがい,相互協力や大きな達成などの肯定的な体験を与えてくれる一方,集団ならではの困難な体験をもたらすことも少なくありません。親しい個人的な関係(友人関係など)と違って,集団の中ではありのままに自分らしく振る舞うことは難しいと感じたり,集団の生産性が期待したほど上がらず,集団運営に悩んだりすることもしばしばあるでしょう。また,社会に目を向けてみると,集団同士の葛藤や対立,集団や組織の不祥事など,社会の中での集団のあり方を考えさせられるケースもあとを絶ちません。
坂田研究室では,「個人も集団も幸福な状態」,「個々人が個性を発揮しながら集団全体が効果的に機能する状態」「多くの集団が社会の中で平和的かつ生産的に共存できる状態」の実現を目指して,様々な理論的・実証的研究に取り組んでいます。個人と集団の関係や集団同士の関係,集団内の様々な影響過程に興味のある人,効果的な集団運営について追求したい人,集団行動の法則性の解明を通じて「人間とは何か」を考えたい人は,是非坂田研究室を訪問してみてください。
(1)リーダーシップに関する研究
従来のリーダーシップ研究の多くは,1人の公式リーダーが多数のフォロワーに影響を及ぼすことによって集団を運営することをイメージしたものです。しかし,実際の集団では,非公式なリーダーが力を持っていたり,フォロワー同士が影響を及ぼしあったりしており,必ずしも強力な影響源が公式リーダー1人とは限りません。また,従来のリーダーシップ研究は,「集団が効率よく目標を達成できるようにする」ための影響力としてリーダーシップを定義してきました。しかし,集団は目標が達成できさえすればよいのでしょうか。組織の不祥事など非倫理性による問題が多発している現状を考慮すると,効率や生産性だけでなく倫理的な観点から行動するよう集団メンバーを方向付けることも,重要なリーダーシップなのではないでしょうか。
現在,坂田研究室では,①リーダーシップの構造的側面に焦点を当て,複数リーダーや共有型リーダーシップの効果,垂直的(リーダー-フォロワー間の)影響過程と水平的(フォロワー同士,リーダー同士の)影響過程の両方を考慮した総合的なリーダーシップの有効性の解明に取り組んでいます。また,②集団メンバーや集団全体の倫理性を育むためのリーダーシップとはどのようなものなのか,その概念の確立と有効性の検討を行っています。
(2)集団過程に関する研究
集団全体の利益を考えて,個人が自分の役割以外の働きをすることもあれば,個人が自分の利益を考えて行った行動が集団全体に思わぬ悪影響をもたらすこともあります。①個人が集団に留まり,高い動機づけをもって集団の利益になる行動をとるようになるためにはどのような要因が必要なのか,また②個人が自分や自分と個人的に親しい人との関係を考えて行った行動が,集団全体や他集団との関係にどのような影響を及ぼすのか,といったことについて,様々な角度から検討しています。
2. ジェンダーと社会的行動
社会システムの1つとしてのジェンダーに焦点を当て,それが個々人の自己概念,対人関係,集団内・集団間行動にどのような影響を及ぼすのかについて検討しています。それらを通して,社会におけるジェンダー構造の固定化の仕組みの解明を目指しています。
坂田研究室では,ジェンダーが恋愛関係や対人関係に及ぼす影響,ジェンダーとリーダーシップ,「男らしさ」の規範と男性の適応,社会の男女平等化が男女間の親密な関係に及ぼす影響など,ジェンダー・ステレオタイプが個人や集団の業績に及ぼす影響など,様々な角度からジェンダー問題にアプローチしています。
■ 履歴・受賞歴等
履歴
1987年 | 広島大学総合科学部卒業 広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程前期(環境計画科学専攻)へ進学 |
1989年 | 博士課程前期修了,博士課程後期へ進学 |
1991年 | 博士課程後期を中途退学 広島大学総合科学部助手に着任 |
1995年 | 博士(学術)取得(広島大学) 広島大学総合科学部講師,その後,助教授,准教授等を経て |
2009年 | 広島大学大学院総合科学研究科教授,現在に至る |
受賞歴等(大学院生のものも含みます)
1995年 | 日本グループ・ダイナミックス学会研究奨励賞 (受賞論文Sakata,K. (1995). The Effects of Social Category Salience and Self-Construals upon Self-Stereotyping Strategies. The Japanese Journal of Experimental Social Psychology, 34, 245-256.) |
2004年 | 日本グループ・ダイナミックス学会優秀論文賞 (受賞論文 高口央・坂田桐子・黒川正流 (2002). 集団間状況における複数リーダー存在の効果に関する検討 実験社会心理学研究,42, 40-54.) |
2009年 | 日本グループ・ダイナミックス学会第56回大会優秀学会発表賞(ポスター発表部門) (早瀬良・坂田桐子・高口央 患者満足度を規定する要因の検討―医療従事者間の協力行動は患者の目にどう映る?) |
2011年 | 日本社会心理学会 若手研究者奨励賞 (杉浦仁美 集団内、集団間地位による外集団攻撃過程の検討 -社会的支配志向性の観点から-) |
■ 主要な著書・論文等
2000年以降の業績の中で主なものを示しています。
著書
- 坂田桐子(2010). 対人関係のジェンダー. 相川充・高井次郎(編著) 展望 現代の社会心理学2:コミュニケーションと対人関係 誠信書房
- 坂田桐子・淵上克義(編) (2008). 社会心理学におけるリーダーシップ研究のパースペクティブⅠ ナカニシヤ出版
- 坂田桐子 (2008). 組織とジェンダー 青野篤子他(編)ジェンダーの心理学ハンドブック ナカニシヤ出版
- Sakata,K. (2007). Gender and leadership effectiveness in the work place. In Suzuki,A.(Ed.) Gender and career in Japan. Melbourne: Trans Pacific Press, pp.58-83.
- 坂田桐子(2004). システムの考え方を問う―ジェンダーの視点から 朝倉尚(編著) 21世紀の教養4 制度と生活世界
- 坂田桐子 (2003). 組織とワークストレス 横山博司・岩永誠(編著) ワークストレスの行動科学 北大路書房, 77-105.
- 坂田桐子 (2003). 女性管理職をどう活かすか:トークニズムに陥らないために 小口孝司他(編著) エミネント・ホワイト:ホワイトカラーへの産業・組織心理学からの提言 北大路書房, 121-138
論文
- 杉浦仁美・坂田桐子・清水裕士(2014) 集団間と集団内の地位が内・外集団の評価に及ぼす影響-集団間関係の調整効果に着目して-, 101-111.
- 杉浦仁美・坂田桐子・清水裕士(2014) 集団と個人の地位が社会的支配志向性に及ぼす影響 社会心理学研究(30巻2号), 75-85.
- 早瀬良・坂田桐子・高口央 (2013). 患者満足度を規定する要因の検討 ―医療従事者の職種間協力に着目して― 実験社会心理学研究,52, 104-115.
- 外浦千加・坂田桐子・早瀬良 (2012). 複数リーダーによるリーダーシップ有効性の検討 広島大学大学院総合科学研究科紀要I, 人間科学研究 7, 25-35.
- 早瀬良・坂田桐子・高口央 (2011). 誇りと尊重が集団アイデンティティおよび協力行動に及ぼす影響 ―医療現場における検討― 実験社会心理学研究 50, 135-147.
- 山下倫実・坂田桐子 (2009). 性役割に対する意識がソーシャル・サポート源としての恋愛パートナーの重要性に及ぼす影響 流通経済大学社会学部論叢, 20, 59-73.
- 山下倫実・坂田桐子 (2008). 大学生におけるソーシャル・サポートと恋愛関係崩壊からの立ち直りとの関連 教育心理学研究, 56, 57-71.
- 高口央・坂田桐子・藤本光平 (2007). リーダーシップとプロトタイプ性が集団成員のモラールとリーダー知覚に及ぼす効果 社会心理学研究,22,245-257.
- 坂田桐子・岩永誠・横山博司(2006). 心理的風土が看護職のワークストレスに及ぼす影響-対処方略採用への影響を考慮したモデルの検討-,産業・組織心理学研究,19, 13-23.
- 高口央・坂田桐子・黒川正流 (2005). 企業組織における職制上司と組合役員によるリーダーシップの効果 実験社会心理学研究,44, 83-97.
- 坂田桐子・藤本光平・高口央(2005). リーダーシップと集団成員性:リーダーの影響力に及ぼす集団プロトタイプ性の効果,実験社会心理学研究, 44, 109-121.
- 高口央・坂田桐子・黒川正流 (2002). 集団間状況における複数リーダー存在の効果に関する検討 実験社会心理学研究,42, 40-54.
- 坂田桐子・山浦一保 (2000). 大学研究者のキャリア発達に及ぼす対人関係の効果-ジェンダーと専門領域による差異の検討.産業・組織心理学研究, 13(1), 19-29.
■ 外部資金獲得状況
- 倫理的リーダーシップ概念の確立とその効果に関する研究,平成25年度~平成27年度科学研究費補助金(基盤研究(C))
- リーダーシップ構造の成立過程とその有効性に関する研究,平成22年度~平成24年度科学研究費補助金(基盤研究(C))
- リーダーシップ過程におけるフォロワーの自己概念の役割に関する研究,平成19年度~平成21年度科学研究費補助金(基盤研究(C))
- 集団間関係がリーダー出現およびリーダーシップ効果性に及ぼす影響,平成15年度~平成17年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))
- ジェンダー・ステレオタイプの作用を規定する集団要因の検討,平成12年度~平成14年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))